2000年代〜現在:児童の権利条約の影響と子育て支援施策の課題【児童福祉の歴史 第3回】

今回の要点

  • 2000年代以降、児童虐待への対応強化が進み、児童相談所の役割や権限が拡大しました。また、子どもの権利条約の理念を反映して法律の理念や制度が見直され、子どもの権利を尊重する方向へと舵が切られました。
  • 2010年代には子育て支援策が少子化対策の柱として大きく拡充され、経済的支援や保育サービスの充実が図られました。一方で、政策が依然大人目線との指摘もあり、「子どもを真ん中に据える」視点での支援策推進が課題となっています。
  • 2023年に子ども家庭庁が発足し、子ども基本法のもと子ども施策の統合的推進が始まりました。今後、新たな体制のもとで児童福祉政策をさらに進化させ、子どもの権利保障と健全育成に向けた取り組みを一層充実させていくことが求められます。

第3回では、2000年代以降の日本の児童福祉における動きと課題を見ていきます。国連の児童の権利条約が与えた影響や近年の子育て支援策の課題に焦点を当てます。

1. 児童虐待防止と子どもの権利意識の定着(2000〜2010年代前半)

2000年に児童虐待防止法が施行されて以降、日本の児童福祉政策は虐待への対応強化を中心に進みました。虐待の相談対応件数は毎年増加を続け、痛ましい児童虐待死事件が報じられるたびに社会の関心も高まってきました。国は2004年より虐待死亡事例の検証制度を開始し、自治体にも重大な虐待案件の検証を義務付けましたsuretgu.com。また、同年の児童福祉法改正では市町村に要保護児童対策地域協議会(地域ネットワーク)を設置し、児童相談所と市町村・警察・学校などが連携してケース対応に当たる仕組みが整備されていますsuretgu.com。2000年代を通じて、児童相談所の人員増強や専門職の育成が図られ、児童虐待から子どもを守る体制は徐々に強化されました。

こうした虐待対応の一方で、子どもの権利条約の理念を国内に根付かせる取り組みも進みました。日本は1994年の条約批准後も対応は遅れがちでしたがsuretgu.com、2000年代に入りようやく子どもの権利を明確に意識した法整備がみられるようになります。その象徴の一つが平成28年(2016年)の児童福祉法改正です。この改正では法律の基本理念に「児童は権利の主体」であることが明記され、全ての児童が尊重され健やかに成長できる社会を目指す方針が示されました。

2. 少子化時代の子育て支援策と政策の新展開(2010年代)

21世紀に入り、日本は深刻な少子化と長期経済停滞の時代を迎えました。子育て支援策は少子化対策として益々重視され、2010年代には大きな制度改革が行われます。平成27年(2015年)からは子ども・子育て支援新制度が施行され、幼保一体化施設(認定こども園)の普及や地域子育て支援拠点の整備など、子育てサービスの総合的な充実が図られました。

経済的支援の面でも、児童手当制度の拡充や保育料の無償化が実施されています。2019年には3〜5歳児の幼児教育・保育の無償化も実施され、子育て世帯の経済的負担が軽減されました。また、少子化対策は依然として「出生率向上」、つまり大人側の目線が強く、政策が子ども中心になっていないとの指摘がありますimidas.jp。例えば、児童手当や各種給付は子ども個人ではなく世帯単位で支給されますが、その使途を決めるのは親で、必ずしも子どものために使われるとは限りませんimidas.jp。こうした点は「こどもまんなか」ではなく「大人まんなか」だとの批判もありますimidas.jp。また、子どもを今を生きる個人として尊重する意識が希薄ではないかとの指摘もありますimidas.jp。さらに、児童虐待や貧困、教育格差など依然深刻な課題に、子どもの権利の視点から取り組む重要性も増しています。

3. 子ども家庭庁の創設と児童福祉の未来

令和に入り、日本の子ども政策は新たな局面を迎えました。2022年6月、子どもに関する政策を一元的に推進する子ども家庭庁設置法と包括的な基本理念を示すこども基本法が国会で成立し、翌2023年4月にこども家庭庁が発足しましたimidas.jpcfa.go.jp。こども基本法は、日本国憲法および児童の権利に関する条約の精神にのっとり、全てのこどもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指す包括的基本法です。同法では子ども施策の基本理念や、子ども大綱の策定、施策立案への子どもの意見反映などが定められていますcfa.go.jp。これは、長年低調だった国の子ども施策にようやく本腰が入った象徴とも言えますimidas.jp

子ども家庭庁は、従来厚生労働省や文部科学省などに分かれていた子ども関連行政を統合し、「子ども真ん中社会」の実現を掲げています。具体的には児童虐待防止策の強化、虐待を受けた子どものケアや社会的養護(里親委託の推進や自立支援)施策の充実、そして経済的困難を抱える子育て世帯への支援拡充(例:低所得世帯への出産・育児一時金)など、包括的な政策を展開し始めています。また、基本法の理念に沿って、政策立案過程で子ども・若者の意見を取り入れる試みも行われつつあります。

もっとも、制度ができたばかりの今、課題解決への道のりはこれからです。少子化は依然として進行し、2022年の出生数は過去最少の80万人を割り込みました。また、児童虐待の相談対応件数も増加の一途で、2020年度には20万件超に達しています。家庭や学校、地域が抱える子どもに関する問題は多様化・複雑化しており、縦割り行政を廃し子ども中心の総合的対策を講じることが求められます。子ども家庭庁の設立はその第一歩であり、今後はこの新たな枠組みの下で、子どもの権利が十分に保障された社会の実現に向けて着実に前進していくことが期待されます。

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